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里山タイニーハウス 滴滴庵
TEKITEKI-AN / 2023 / Tiny House
雨が降ったあくる朝、太平洋まで望める古民家の裏手から、夏みかんに伝う一滴のしずくを見た。生命に不可欠な水は様々に状態を変化させながら、この地球を巡っている。一滴一滴から始まる大きな水の循環に我々の生を結び付けられるこの場所を、「滴滴庵」と名付けた。ハイデガーは、天、大地、神的なるもの、死すべき者どもの四者が集うことが住むことであると言った。神的なるものとはここでは「夏みかん」であり、循環する「水」である。訪れた人が夏みかんと出会い、空と、海と、大地とともに集うことができる建築のあり方を目指した。
私たちは里山に通い、田んぼ仕事から茅葺屋根の葺き替え、山林整備、土木作業まで様々な活動を通して農的な暮らしの実践を行ってきた。里山仕事で得られる資源は、もとから建築のために用意されたわけではないが、適切に手を加えることで資材となり、その特性を活かした設計配慮を施すことで建築に取り込むことができる。里山仕事が建築をつくり、建築が里山の美しい風景を支えている。そのような関係性で周囲と結びつく建築こそ、「ランドスケープアーキテクチャー」と呼ぶにふさわしい。
千葉県鴨川市釜沼北集落には、年間延べ1000 人もの都市住民が訪れ、棚田での農作業や醤油作り、炭作り、茅葺、など各種野良仕事、手仕事を行っている。作業中の休憩やリモートワークに、あるいは一時的な滞在にと、わずか9平方メートルの「方丈」は里山に贅沢なひと時をもたらしてくれるだろう。